小さな子供を連れて海外旅行に行く馬鹿親

海外旅行の雑誌や、育児関係の雑誌の読者の声によくある、9か月の赤ちゃんとハワイに行って一緒に楽しみましただの、1歳の子供をシンガポールに連れていったら動物園で楽しんでいましただの、そういうのを見て、親が楽しみたいだけなのに、付き合わされてかわいそうにと思っていた。だいたい小さな子どもが何十万円もかけて珍しい外国に行こうが、歩いて近くの公園に行こうが、分かりやしない。物心が付く前であれば、後で楽しかったなぁと思い出すわけでもない。長距離の航空機などに閉じ込められるのは大人にとってもしんどいものだが、行った先で楽しいことがあるわけでもない子供にとってはもっと苦痛だろう。たまたま元気で帰ってきたから良いようなものだが、慣れない外国で病気でもしたらどうするのだろう。だいたい泣いている子供がいたりする飛行機に乗りあわせる他の乗客も迷惑だ、などと思っていた。自分たちがそうなるとは思いもせず。
それでも小さな子供を連れて飛行機に乗らなければならない人がたくさんいることは理解できる。国際結婚をしていたり、ウチのように親が住んでいる出身国から離れて暮らしていたりすると、子供を祖父母に会わせに行くこと自体が目的の「海外旅行」というのもある。NZ-日本の国際線に乗ると、必ず小さな子ども連れが何組もいるが、多くはそのようなケースのように見られる。
ウチの娘も2歳になった。これまで日本には3回、1-2泊の国内旅行は何度も行っている。今回は週末に数日の休暇を加えてオーストラリアのメルボルンへ旅行に行くことにした。ウェリントンからメルボルンは約4時間のフライト。動物園にでも行けば楽しいかもしれないが、2歳児にとってはウェリントンの動物園でも違いはない。要するに親が行きたいのだ。すまん、娘よ。
子供というものは予告なく突然具合が悪くなる。実は出発の前日になって急に吐いたりしていた。これはまずいかもと思ったが、当日には元気になっていたので、2か月も前にセール価格で予約していたものをキャンセルや延期をする勇気はなかった。(スケジュール変更すると同じ価格にはならない)これがまずかった。
到着の翌朝はなかなか起きあがらず、泣いてばかりで出かけたがらない。抱っこして連れだしたが、ずっと寝てばかり。起きると泣いてばかり。ほとんど見るものも見ずにホテルに帰ってきた。
次の日もその次の日もぐったりして寝てばかり。外に連れ出すこともできず、部屋に置いていくこともできないので、交替で外出した。
メルボルンは本当に都会で、建物は大きく、町並みも美しく広く華やかで、たくさんの人がいた。ウェリントンはニュージーランドの中では都会だけれども、メルボルンと比べたらつくづく田舎だと圧倒された。
いっこうに症状は改善せず、とうとう金曜の夜に救急病院を探してタクシーで乗り付けた。ホテルで調べて私立の24時間やっているとされる病院に電話したら、直接公立の子供病院(Royal Children's Hospital)の救急にアポなしで行くように言われたのだ。
救急の窓口ではたくさんの人が待合室で座って待っていた。トリアージと書いてある窓口に最初に並んだ。それほど待つことなく順番が回ってきて、ナースに状況を説明し、病人を見てもらうと、すぐに別室に案内された。熱が3日も続いていることと、呼吸が苦しそうなのが優先順位を上げたのだろう。
以前効いた吸引剤(2010年9月23日 医療費無料 )は効果がなく、酸素吸入をしながら、ステロイドや抗生物質を点滴することになった。入院だ。肺の感染ということであるから日本語で言えば「肺炎」。抗生物質がない昔だったら、死んでいてもおかしくなかった。せめてもの幸いは、滞在地が近代的な病院のある大都市だったことだ。
日曜日の帰国予定は延期。結局酸素チューブも点滴も外れて、退院できるようになったのは水曜日だった。この間、病院の近くにホテルも引っ越して、交替でシャワーを浴びたり、自分たちの食べるものを買ってきたりしながらずっと付き添った。
悪いことは重なるもので、チリの火山噴火の影響で、退院後も飛行機が飛べない状態が続いていて、航空会社が取ってくれたホテルに泊まり、ようやく金曜日に帰国した。思わぬ長期休暇で、職場をずいぶんと空けることになった。
娘はニュージーランド国籍なので、幸いオーストラリアでの医療費は無料。(2010年5月20日 何か不公平 )延長した滞在費もクレジットカードについている海外旅行保険で大部分はカバーされるはずだ。しかし、仕事を休んだ分の所得は誰も補償してくれない。子供に辛い思いをさせたのはもちろんだが、金額的にもキャンセルや延期をしたほうが安かった。馬鹿親への罰だ。
といわけで、子供を連れての旅行、少しでも具合が悪い時には勇気を持ってキャンセル・延期をすること。
写真は、6日間お世話になったメルボルンのRoyal Children's Hospital。中の設備は少し古かったが、後ろに新しい建物が建築中であった。