車が凹(へこ)むと気分も凹む

奮発した妻の誕生日ディナーの後、レストランの前の通りに停めておいた車が凹んでいた。左側のドアが2枚とも凹んでいる。2カ所であるから誤って車などがぶつかったとするには不自然だ。夜の街を奇声を上げて徘徊する若者(馬鹿者)の仕業であろう。犯人は見つかるわけがない。

学生の免許取り立ての頃、やはり車のドアを駐車場の支柱にぶつけて、ひどく凹ませたことがある。運転技術が未熟で(白状すると少しアルコールも入っていた。)、うっかりハンドルを切ったままバックしたのだ。近所の板金屋に持っていったら、貧乏学生の古い中古車をみて気の毒に思ったのか、ドアの裏張りをはずし、内側から凹んだ部分をたたいて、おおむね元通りにしてくれた。もちろん近くからよく見れば完全に平らではないのは分かるが、もともと十数万円で買ったポンコツの中古車であったし、それで十分であった。費用は数千円だったと記憶している。

今乗っている車も新車ではないが、それほどポンコツでもない。このまま凹んだまま乗るには、あまりにも格好が悪い。フルカバー(車両保険付き)の保険に入っているのだから、これは明らかに保険対象の事故だということに気づいた。

日本では保険を使うと翌年から無事故継続割引の等級が下がってしまい、長期にわたって保険料を余分に払わなければならいので、小さい修理では保険を使わない方が賢明であるといわれる。そういえば日本では10年以上自動車保険を払い続けて、もうこれ以上安くならない最高の等級まで行ったが、一度も保険を使うこともなく、車を手放してから年月が経ち、すでに等級は失効してしまった。

今NZで入っている自動車保険は、まだ3年も経っていないのに、すでにNo Claim Discount for life of 65%となっている。日本の保険も欧米ほどではないにせよ、自由競争が進んでいるかもしれないが、終身無事故割引というのはまだないと思う。

だから保険が使えるならば来年以降の保険料とかあまり難しいことは考えず、使った方がよいということだ。ただしexcess(免責)が300ドルだ。つまり修理代が300ドル以下であれば全額自己負担。仮に1000ドルだったら本人は300ドルだけ払って、残りの700ドルは保険会社が払うということになる。

さっそく保険会社のホームページからClaim(請求)をした。数ページにも及ぶオンラインフォームで、車のどこに傷がついたのか、図にチェックするような高度な機能もついたフォームだ。電話でややこしい話をするのが苦手なぼくらのようなガイジンにはとても親切なシステムだ。どれほど利用する人がいるのかは分からないけれど。

フォームを送信すると、土曜日にもかかわらず、すぐに担当者から電話がかかってきた。月曜日に担当者に指示された近所のパネルビーター(板金屋)に車を持ち込み、その日は写真を撮っただけでおしまい。

「ああ、これは蹴飛ばされたね〜」

とのこと。だいたいいくらくらいかかるのか、顔色をうかがうと、

「2枚ドア交換で。」

とあっさり言ってくれた。その場では翌週のアポイントを取ったが、後で電話があり、部品を日本から取り寄せるのに7営業日くらいかかるので、しばらく延期してほしいとのこと。

面倒だから、そうですか、分かりましたとは言ったものの、さすがこちらの人は適当なことを言うものだ。もう慣れたけど。7営業日で日本から荷物が届くわけがない。そんなに早い送付方法があるのならば、使ってみたいものだ。日本からのEMSだって5営業日はかかるのだし、板金屋に日本の部品問屋から直接EMSでドアが届くわけでもあるまい。

それにしても乗用車のドア2枚を空輸とはお大尽ですな。こちらは日本から必要なものは、何でも船便で送ってもらっているのに。いったいいくらかかるのやら、くわばらくわばら。少なくとも300ドル以下ということは送料だけでも絶対にないだろう。

そして、それからそろそろ2週間以上経った今でも、案の定パネルビーターからは何にも連絡がない。保険会社に聞いてみたら、パネルビーターからの見積待ちとのこと。そして車のドアは今日も激しく凹んだまま。