海外にいながら日本の家を売る

最近は落ち着いているものの、ニュージーランドではここ10年で不動産の価格はとても上昇した。ニュージーランドでは個人のキャピタルゲインには課税されないので、投資目的で複数の不動産を持つ人が多いようだ。今まで不動産価格は上昇傾向だったので、余裕資金があるならば、転居した後も前に住んでいた家は売らずに貸しておいて、将来値上がりしてから換金すればよいと考える人が多いのだろう。
ぼくが日本にいるときに住んでいた家は、別に資産運用するつもりではなかったが、賃貸と売却と両方で募集したら、たまたま借りたいという人が先に現れたので、ずっと貸していた。
以前の記事(海外在住のまま不動産登記の住所変更をした)で書いたように、昨年賃借人が退去したので、インターネットで見つけた地元の不動産屋に売却をお願いしておいた。(賃貸の管理をしてくれていた業者は、専門が異なるらしく売却については実質何もしてくれなかった。)

どうやって取り扱ってくれる不動産屋を見つけたか

だいぶ値下がりしていて、おおよそ不動産屋が取り扱いと思うような金額で売れそうにないことは分かっていたが、インターネットのオンライン査定で、取り扱ってくれる不動産屋を見つけることができた。
メールでのやりとりで誠実そうな印象を受けたので、販売活動をお願いした。仲介契約の捺印のときには親族などの代理人を立ててほしいとのことであったが、ちょうど一時帰国の予定があったので、その際に訪問して契約書を交わした。
仲介業者としては売主と会って意思を確認しないというのはリスクであるので、それはまあ納得のいくことである。

現地に行かなくても売れるのか

これは結構厄介だ。不動産の取引は、決済・引渡し日に売り手、買い手、仲介業者、金融機関、司法書士が全員一同に立ち会って、契約書の捺印等をするという習慣があるからだ。仲介契約をしたときの不動産業者の担当者には、決済日には一時帰国してくださいと言われていた。
もちろん、これは単なる日本の商習慣で、全員が一同に集まらなくても、現実にはお金を動かすのは銀行だし、登記をするのは司法書士なので、その職を失う覚悟で、お金を持ち逃げしたり、不正な登記をしてしまうということはまずありえないだろう。残念ながら銀行員や司法書士が今後の収入を失ってもよいというほどの金額の取引ではない。それに、もしそんなことをするプロがいたら、全員が一同に集まったところで防ぐことはできない。
ちなみにニュージーランドには当然そんな習慣はないので、人に説明するのが難しい。
その後、値引き交渉などもあったりしたので、不動産業者の担当者に、決済日に一時帰国しなくてもよいように頼んでおいたところ、無事、一時帰国なしで決済ができた。
不動産の売却には原則として実印と印鑑証明書が必要だ。所有権移転の登記をするのに、前所有者の意思であることが確実でなければならないからだ。(登記という点では買う人は実印はいらない。しかし現実にはローンを組むのに銀行が要求する。)
印鑑証明書というのは、住民登録されている市区町村が発行してくれるものだ。ぼくらのように日本のどこにも住民登録がない日本人は、在外公館(大使館・総領事館)で、署名証明というのを発行してくれる。
署名証明というのは、証明してほしい書類に領事の目前で申請人が署名したことを証明してくれ、その書類と綴り合せる形式[形式1]と、日本の印鑑証明書と同じように単体の書類[形式2]の二つがある。
司法書士の指示は、形式1であったので、日付なしで署名捺印するように言われていた売買契約書、領収書や登記申請の書式などの大量の書類のうち、司法書士への「委任状」にこの署名証明をつけてもらって送り返した。
登記所が登記書類を受け付けてくれるのならば、それ以外の書類はサインであろうと、三文判であろうと、当事者が合意すれば法律的には有効であろう。

譲渡損失は申告できるか

買ったときよりも高く売るのが当たり前のニュージーランドとは逆で、日本では新築住宅は買ったとたんに値下がりするものだ。しかも今の日本では、バブル以前に買ったとか、よほど人気のある地域であったりしなければ、中古住宅が買った時よりも高く売れることはあまりないだろう。
それにしても、売却価格は14年前に買った値段のわずか21%であった。もちろんニュージーランドではこの14年で5分の1の値下がりなんてありえない。普通は逆だ。職場の誰もが驚く。斜陽の国日本恐るべし。
減価償却や諸経費を引いても何年分かの年収に相当する損失額が確定したわけであるから、今年度の収支は会計上大幅の赤字である。所得税を払う必要はないと考えるのが普通だろう。
もし日本で給与所得等があれば、少なくとも今年は損失の申告ができるので、給与から源泉徴収された所得税は全額還付されるだろう。ただし、原則として損失を翌年度に繰り越すことはできないというのは、ニュージーランドと違いちょっとアンフェアだ。(繰り越せる特例はあるが該当しない。)
ちなみに、日本に住所がなくても(税法上日本の居住者でなくても)、日本の不動産を売却して譲渡益が出たら、売却益を申告しなければならない。ということはつまり、譲渡損が出たら損失を申告できるということだろう。
しかし、所得がなければ所得税の確定申告をする義務はない。今年は家賃も受け取っておらず日本で申告する所得はない。翌年以降に損失を繰り越すこともできないので、つまり日本で譲渡損失の申告はできないし、したところでもちろん何の還付もない。
では、税法上居住地であるニュージーランドで損失の申告をして、所得税の還付を受けることができるのだろうか。日本の居住者が海外の不動産を取引して利益が出たら、日本の税務署に申告しなければならない。つまり損失も認められるということになる。ニュージーランドではどうなのだろう。
あまり期待せずIRDに問い合わせたところ、意外とすぐに回答が来た。

Any losses or profit received as a result of the sale of your property does not need to be declared in New Zealand on your IR3 return.

個人資産の売却益はニュージーランドでの申告は不要。つまり損失も申告できないということだ。
なお、現政権はキャピタルゲインの課税について消極的で、今年の選挙の争点になりそうだ。

誤記がありましたので修正しました。
「現政権はキャピタルゲインの課税について積極的で」→「消極的で」
本文は修正済みです。